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「対馬が乗っ取られる」というデマ

2010年2月5日

 常時10紙を超える新聞を購読しているが、そのなかで地方紙は沖縄の事情を知るための「琉球新報」と故郷の地元紙である「西日本新聞」くらいだ。その西日本新聞の文化面に年頭から掲載されている「『倭人伝』を読み直す」という連載を興味深く読んでいる。3世紀の日本を描写した倭人伝の世界は、九州北部が主な舞台で、そこで生まれ育った者にとってはなおさら興味をそそられるからだ。
 日本の文化的発祥の多くは朝鮮(韓)半島から流れてきたものだけに、韓国に近い島・対馬(対馬国)は古代から重要な役割を果たしてきた。当時、対馬——壱岐——唐津・呼子のルートが魏志倭人伝に書かれたそのもののルートで、それ以外にも宗像——対馬ルートがあったことなども連載の中で記述されている。対馬から朝鮮半島—— 中国とつながることは当然だが、当時、外交の主舞台は九州北部(福岡・佐賀・長崎)であって、なかでも「対馬」の地理的役割は大きかった。
 その対馬が近年、「週刊新潮」や「産経新聞」の意図的報道に煽られて、韓国に乗っ取られるかのように騒がれ始めて久しい。韓国資本が対馬の自衛隊周辺の土地を買い占めているなどと煽ってきたが、実際は、一般的な商行為であって、日本人がハワイなどで土地を買うのと同じことだ。真相と異なる断片的事実を針小棒大に騒ぎ立て、世論操作を図ろうとするのは古今東西見られる現象だが、このデマは極めてわかりやすい。
 私は昨年、対馬を取材で訪れた際、地元市長からそのような話に「事実的根拠はない」という証言を直接聞いた。さらに心ある対馬市民からも、仮に対馬全土を韓国人が買い占めたとしても(そのようなことは現実には起こらないが)、「対馬が日本国長崎県対馬市であることに何ら変わりはない」と憤った口調で語ってくれた。
 その対馬は、外国人参政権を付与すると乗っ取られかねない島として、いまも一部勢力によって“利用”され続けている。櫻井よしこなどは、そうしたデマ扇動に加担してきた筆頭格の著名ジャーナリストだ。
 対馬をめぐる「デマ」は、すでに“手垢まみれ”といってもよい。

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