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「草の根」の闇6  転落現場の住民は語る

2008年10月4日

 そもそも私はこの事件について、最初から取材していた人間ではない。女性市議が転落死した「現場」を最初に訪れたのは97年になってからで、事件発生からすでに2年近くが経過していた。取材者としては「後発組」にすぎなかった。現場となったロックケープビルの5階の住人に“飛び込み取材”を試みると、そこに事務所をもつ男性住民が対応してくれた。その際のやりとりは次のようなものである。

――2年近く前の事件のことで恐縮ですが、5階の住民が「キャー」という悲鳴を聞いたと雑誌の記事で読んだので取材でまわっているところです。
 男性 (女性市議の叫び声を聞いた人は)今はいません。もういいでしょう? もう何回となく聞きに来ているから。だってさ、1年以上だいぶ前の話でしょう。
(それでも説得に応じて、共用部分の踊り場へ移動する)
 男性 跡はきれいになくなっている。ぶら下がった感じでついていた。救急車が来たので、初めて気がついたんです。上(5階)から見たとき、(女性は)フェンスの内側に落ちていたので、ああ助かったんだと思いました。そのときはてっきり、職人かなにかが電気工事で落ちたのかと思っていましたよ。まさかここから落ちたとは思わないじゃないですか。
――そのとき何をしていらしましたか。
 男性 私は(事務所の奥のほうで)パソコンゲームをやってたんです。もう一人の子は、こちらの玄関のほうにいたから。
――争ったようなこととかは。
 男性 ないないない(即座に)。鉄板一枚だもん、そこのドアだって。こんなに話しているだけで、向こう側に聞こえるくらいです。コソコソやっている声も全部聞こえちゃうんですよ。すっげえ、反響するもんで、エレベーターの開いた音だって聞こえちゃうから。
――玄関の近くのほうに女性の方がいらっしゃったのですか。
 男性 そうそう。
――その方が「キャー」という叫び声を聞いたわけですね。
 男性 そうです。向こうの建物にいた人も聞いたって言ってましたね。それから車のぶつかるような音が、ドスンとしたんです。

 わずかな時間の立ち話にすぎなかったが、その男性は転落現場の手の跡のあった場所を指し示してくれ、さらに「争った形跡」がまったくなかったことを≪直接証言≫として語ってくれた。さらに、警察の事情聴取にも2回応じたことを伝えてくれた。
 結論として、転落現場において、朝木明代が第三者と争った痕跡は、証言上も、証拠上もまったく存在しない。午後10時の時間帯である。このことは、事件当夜、朝木明代が現場に一人でやってきて、自分で飛び降りようとしたところ、動転してか「キャー」と悲鳴をあげた状況を物語っていた。(つづく)

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